カナダで爆売れ中のチョコの正体とは?!

“War can kill anything in a person, but it cannot kill values and hope. “
「戦争は何もかも奪い去ります。でも価値観と希望は奪えません。」
Peace by chocolate: One Syrian refugee family’s journey to sweet success (UN News)
カナダにあるチョコレートメーカー「Peace by chocolate(ピース・バイ・チョコレート)」。2024年に映画化もされたのでご存じの方もいるかもしれません。
実はこのチョコレートは、シリアの難民の方がカナダで立ち上げたチョコレートブランドです。
なぜ移民先でチョコレートを作ることになったのか?またここから我々が学べるマーケティング要素とは何なのか。記念すべきコラム第一回目は、カナダのチョコレートブランド「Peace by chocolate」を取り上げたいと思います。
創業の背景
難民生活の始まり
Peace by chocolateの創業者タレク・ハダドはシリア出身。元々彼の父親はシリア有数のチョコレート工場を経営していました。しかし2012年、激化するシリア内戦により工場が爆破。翌年には自宅近くにミサイルが落ち、命の危機を感じた一家は隣国レバノンへと避難します。(その直後に自宅が略奪・爆破されたそうです・・)
レバノンでは難民として生活し、働く権利も教育を受ける権利もなく、日々の生活は非常に制限されていました。しかし医学生だったタレクはその知識を活かし医療ボランティアに従事。国籍に関係なく病気や怪我人を介護しました。
当初はシリアへの帰国を目指していましたが、子ども達の教育を考え他国への移住申請を開始。なかなか受け入れてくれる国はありませんでしたが、待つこと数年ついにカナダが数万人のシリア難民の受け入れを表明。ハダド一家もカナダに移住することになりました。
移住先はカナダの小都市アンティゴニッシュ。住民達が難民の支援団体を立ち上げ、名前も顔も知らないシリア人家族を受け入れてくれることに。“難民問題を解決することはできなくても、難民の一家を救うことはできるかもしれない”との思いで、住民が自主的に受け入れを支持してくれたそうです。(カナダ素晴らしい国だ・・・)アンティゴニッシュの方達は、ハダド家族に住居の提供や就職支援、また銀行口座の開設やご家族が教育を受けるための手続きまで、様々な支援をしてくれました。
しかしタレク自身が何よりも嬉しかったのは、町の人たちが「友情」を築いてくれたことだそうです。支援を“する側”と“される側”という関係ではなく、“対等な関係”で接してくれたことが何よりも嬉しかったとのこと。
「戦争しか知らなかった私たちに、人間の優しさを再認識させてくれたのがこの町の人々でした。」
Peace by chocolateの誕生
ある日料理を持ち寄る「ポットラックパーティー」に呼ばれたタレクの父は、手作りのチョコレートを持っていきました。するとそれが大好評で、10分もしないうちになくなってしまったのです。
「ぜひ販売してほしい!」との声に応え、タレクの父は自宅のキッチンでチョコレートを作るようになりました。すると口コミでそのチョコレートは人気となり、キッチンではスペースが足りず住居の隣にチョコレート工房を建てました。またタレクが主体となって会社も設立し、自分たちを受け入れてくれた感謝の気持ちを込め「Peace by Chocolate(チョコレートで平和を)」と名づけました。
2016年の創業以降同社は急成長し、気づけばアンティゴニッシュで3番目に多くの雇用を生み出す会社へと成長していました。現在(2025年)では北米全体で約1000の取引店舗と提携し、日本や中東への進出も視野に入れているそうです。
その名の通り社会貢献に熱心な同社は、カナダで山火事があった際には会社の利益を寄付して支援団体をサポート。トルドー首相(当時)が国連サミットで彼らの貢献を紹介するほど話題となりました。また毎年利益の3~5%を世界中の平和構築プロジェクトに寄付しています。またカナダの次は祖国シリアへの支援にも力を注いでいるそうです。

マーケティングの学び
Peace by chocolateがなぜここまで売れているのか、またそこから我々が学べる要素をまとめました。
①印象に残る創業ストーリー
- シリアの難民がコミュニティの支援で再起し、大ヒットブランドを生み出し雇用という形で恩返しをしたというドラマは共感を呼び、ニュース等で大きな話題となりました(映画にもなりました)
- (ここまで強力ではないにしても)製品がどういった経緯で生まれたのかといったストーリーは記憶に残りやすいです。日本企業でもバングラデシュで革製品を製造する「マザーハウス」や、気仙沼の女性が手作りで編む「気仙沼ニッティング」も同じように”創業のストーリー”が(商業的な意図をしていなくても)強力なインパクトとして記憶に残り、競合製品との差別化となり、熱烈なファンを生み出すことに成功しています。
- また「シリアの難民の方々が」「カナダの田舎町で始めた」というストーリーから、人々は自然と田舎町で人が手作りでチョコを作っている様子を思い浮かべます。(実際に全工程の75%が手作業とのこと)それもまた機械で大量生産しているイメージの大手チョコ会社との”味わいイメージ”の差別化となります。これは「クラフトビールが大手メーカーのビールより美味しそう」と感じることに近いと言えます。
②覚えやすい&伝わるネーミング
- 「Peace by chocolate」というド直球なネーミングは覚えやすく、また「平和」を志向する(=社会的な意識が高い)製品であることが瞬時に伝わります。
- 実際に利益の数%を社会貢献活動に寄付しており、消費者はチョコという日常的な消費を通して、大きな社会課題に貢献できるという充足感を得ることができます。
- これは他のチョコレート会社も実施できますが、いきなり始めると商業的な目的のために行なっている偽善的な印象がぬぐえません。一方でPeace by chocolateはその成り立ちから難民への寄付などブランドとの矛盾が全くないため、消費者も好意的に受け取れます。
③たとえ少人数でも熱烈なファンがいる
- アンティゴニッシュの方々への恩返しとして始まった同ブランドは、当然ながら地元の方々から熱い支持を受けています。
- 以前は特定の地域に愛されるブランドの人気はその地域内に留まっていましたが、現代ではSNSですぐに拡散されます。そのため都会で広いターゲットに向けて商品を出すよりも、特定のエリアやコミュニティでまず少人数でも熱烈なファンを作ることが、遠回りに見えて一番の近道となります。
- まずは少人数でもいいので、ブランドを熱く支持してくれる人達、つまりブランドの足場となるベースを築くことが重要です。1万人に送られる電子メールよりも、1人に送られた手書きのハガキの方がインパクトを持つこともあります。
まとめると、
・印象に残るストーリーを持っているかどうか
・一瞬で覚えられる名前かどうか
・熱く支持してくれる少数のファンがいるかどうか
これがPeace by chocolateから我々が学べるマーケティングレッスンになります。
「誰も過去に戻ってやり直すことはできない」
タレクは国連のインタビューで、作家メアリー・ロビンソンの言葉を最後に引用しました。
“Nobody can go back and start a new beginning, but anyone can start today and make a new ending.”
「誰も過去に戻ってやり直すことはできない。でも今日新たにスタートして、新たなエンディングを作ることはできる。」
Peace by chocolate: One Syrian refugee family’s journey to sweet success (UN News)
難民になるということは、家や資産など全てを失うことを意味します。そんな絶望的な状況で一から全てを立ち上げた彼らの物語は、我々に勇気を与えてくれます。
“今日新たにスタートして、新たなエンディングを作ることはできる。”まさにこの前向きな精神がプロダクトに宿っていることが、Peace by chocolateがここまで人気になった一番の理由かもしれません。その意味では、商品の最強の差別化は作り手の「魂」とも言えます。「魂」は模倣できないからです。
”今日のあなたの行動で、エンディングを変えることができる。” 遠く離れた日本に住む我々も、この言葉をかみしめて今日一日を力強く生きていきたいと思います。
※写真は全て「Peace by chocolate」のホームページより



